ボルトアクションなのにエアコキではなくガスです。M700はいわずもがなレミントンの「最も新しい伝説」のひとつであるボルトアクションライフルですね。M24とかM40とかいろいろ名前を変えてアメリカ陸軍に海兵隊、世界各国の特殊部隊からシェリフのような地方警察まで幅広く使用されているボルトアクションライフルにおけるコルトガバメントのような代物です。
タナカがパワーソースにガスを用いるボルトアクションライフルを発売したのは1年か2年前、モーゼルKar98が最初です。ライフルがパワーソースにガスを使用するのはJACやMGCなど電動が登場するまでは当たり前でしたが、その頃でさえフルオート射撃のためにはエアタンクなどのガスではない外部パワーソースが事実上不可欠でした。そして近年ガス使用のライフルは殆ど絶滅状態でした。3〜4年ほど前、最後にコクサイがM16系のブローバック式を発売しましたが、冬場ではまともに動作しないため大して人気も出ず、いつの間にか生産中止になっていました。タニオコバもルガー10/22を発売しましたが1挺10万円前後の高級モデルな上、これもブローバック式なので冬場に弱く、イマイチぱっとしない製品でした。電動ではない長物はボルトアクションライフル、そしてAPS2の存在によってボルトアクションライフルはエアコッキング、という時代がしばらく続いています。そんな中、タナカがボルトアクションライフルの始祖のひとつ、既に基本構造は今のボルトアクションライフルと同じ形に完成されていた稀代の名銃モーゼルKar98をガスで、しかもボルトアクションで発売したのです。元々、ナチスドイツ系アイテムを出しがちなタナカがKar98kなんで、その手のユーザーには売れて当然だった訳ですが、これがそうでないユーザーの評価もちょっと高かったのですよ。
今回のM700とKar98kのエアガンとしての基本構造は殆ど同じようです。しかしガンショップの人の話では遙かにM700の方が性能が上げられているということです。ま、第2弾なんだからよくなって当然です。
APS2を使っていると錯覚してしまうボルトアクションライフルの最大の特徴は「ボルトを引くのに力がいる」ということです。これはボルトアクションライフルに限らず、東京マルイの電動セミオートでありPSG-1でも初弾はコッキングが必要であり、それが重いためによく言われることです。これは電動もエアコッキングも、原理的にはボルト内に仕込まれたシリンダのスプリングを圧縮し、それがトリガーによって開放されたときに生じる空気圧で弾丸を射出する構造になっており、ボルトを引くときにスプリングを圧縮する力が必要なためです。実銃の場合、ボルトの前後動作は純粋に排莢と次弾の薬室装填(ケースのイジェクトとチェンバーへのローディング)のための動作であるため、ボルトの前後動作には殆ど力が要りません(実際に実銃のM700を撃ってきた経験から言いますと、チェンバーからケースを引き抜くのに少しの抵抗があり、ボルトを戻すときは装填させるのに多少抵抗が感じられます。タナカのM700よりは抵抗があり、ノーマルのAPS-2よりは軽いといった感じです)。タナカM700はパワーソースがガスであるため、ボルトの動きには殆ど抵抗がありません。銃口を上にしてボルトハンドルを上げればボルトは勝手に最後端まで落ちます。さらに銃口を地面に向ければ元の位置に落ちます。実銃と違って排莢は必要ないので、ボルトの前後動作は装填のためだけに行なわれます。また実銃と違って弾丸というかカートリッジというかBB弾の、長さというか直径は僅か6mmしかないので、ボルトの前後動作は2〜3cmだけで事足ります。肝要なのはボルトハンドルです。ボルトハンドルを上げることによってボルト内に仕込まれたハンマーがコッキングされます。あとはガス使用のハンドガンと同じです。トリガーを引けばハンマーが落ち、ストライカーないしファイアリングピンを叩き、それがマガジンのガスバルブを開いて、ガスがマガジンからチェンバーに導かれて弾丸を射出する、というおなじみの手順です。勿論ブローバックはしませんけどね。
スライド固定のハンドガンに近いですが、それの場合はチェンバーへ弾丸を装填するためにトリガーを引く力を利用していることが多く、トリガーがダブルアクション並の長さと重さになってしまう欠点がありました。パワーソースにガス、オペレーションはボルトアクション、一見不条理に思えるこの組み合わせにより冬場にパワーが落ちるとしても、確実な動作と実銃と酷似した操作性を実現しており、これは想像していたよりかなりすごいことだと実感できます。
写真にあるとおり、ボルトはトリガーガード内のボタンを押すことによって容易く引抜くことが出来ます。構造や外観はこれまた実銃と酷似。APS2と違ってボルトの長さは実銃と同じですので、これまたAPS2と違ってマガジンの位置実銃と同じになります。実銃と大きく異なるのはマガジンの形状です。本来M700はブラインドマガジンという内蔵式のためマガジンが取り外せません。ボルトを引いて、イジェクションポートから1発ずつ5発入れます。ストックのトリガーガード前には装填のためのスプリングを保持するフタがついており、そのタナカM700ではそのフタをマガジンとしています。これは一体成形のダイキャストで出来ており、熱効率と確実な固定を狙っています。ま、副作用というか、トリガーガード内にマガジンリリースがあるために必要な安全策なのか、ボルトを若干引いた状態でなければマガジンの着脱が出来ないようになっています。
外観上の最大の問題点は、バレル先端に付属のアイアンサイト(フロントサイト)固定用のパーツがねじ止めしてあり、これを外すとねじ穴がバレルに開いたままなうえ、マズルクラウンとなっているプラパーツの固定が甘くなってしまいます。同径で短くて黒いねじがあれば解決できそうですが・・・。それとブリーチ左側の刻印がM700となっているのみで、レミントンの刻印はありません。こういうのを見るたびにWAが引起こしたユーザーにとって不利益でしかない寂しい時代になってしまったことを痛感しますね。またストックのパーティングライン等の処理がすこし甘いような気がしますが、たぶん、実銃のマクミランセンサテックストックもこんなものなのかもしれません(グロックのフレームなんて日本製エアガンの方がずっと質がいいそうですよ)。
初速は手持ちの初速計であっさりと2J超えました。夏場だと2.5Jほどまで達し、BB弾では貫通が難しいペットボトルもあっさりぶち抜きます。2007年2月の銃刀法改正(どう考えても改悪なんですが)で、このパワーは違法になります。このデタラメな法律は適用範囲が新規発売分だけではなく、過去のものでも所持していれば違法というもので、この銃もこのままでは持ってるだけで逮捕です。マイノリティの財産を強制的に放棄させるホントむちゃくちゃな法律です。このパワーではサバイバルゲームでの使用が難しいということで、タナカは1Jにパワーを落としたボルトを別売りしてましたので、それをつけて適法にしました。現在販売分は全てこの1Jボルトになっているそうです。因みにパワーソースがガスということで気になる冷えの影響ですが、数発速射してマガジンをわざと冷やしたところ、飛距離は確実に落ちるものの、15mほどはスコープのエレベーションの微調整で追従できる範囲です。冬場でもそんなに気にすることはなさそうです。ホップ調節はスコープマウントについているダイヤルで行ないますが、本当に効いているのかナゾです。最大にしても最小にしても、何の変化も感じられませんでした。0.25と0.30gでしか試していないので0.20だと違うのかもしれませんが。
肝心の命中精度ですが、ノーマルではスナイパーライフルとしてはいい方だとは言えません。インナーバレルを交換して、やっとAPS-2よりはやや悪いといった感じです。ちなみにノーマルで7mという近距離での10発グルーピングは2.6cmでした。
総評。性能は期待以上です。しかし外観は期待したほどではありません。タナカはモデルガン寄りのメーカーなので、どちらかというと性能を犠牲にしても外観にこだわる傾向がありますが、今回はナチスドイツ系アイテムでない所為か、わりといい加減です。