個人的にS&Wの銃では一番好きなのがこのM945です。M645に憧れ、ガバを愛す身としてはそのハイブリッドともいえるこの銃を好きになれないわけがありません。
KSCはとてもいい製品を作るのに、外観のリアルさを重視しすぎたりして何かしら問題点があったりで、WAやマルイに比べて評価されにくいちょっと気の毒なメーカーです。個人的にその最たる例はM945シリーズだと思うわけですが・・・。今回はそのM945の高級カスタムのうちたぶん人気の出ないほうのツートンモデルです。
M945の銀鱗バージョンについては過去にべた褒めしているとおり、この銃は外観、動作性、命中精度の全てにおいて、文句の付け所がない製品でした。ただひとつ問題点があるとすれば、その外観が美しすぎる点かもしれません。WAと違ってきれいなメッキで、エッジもしっかりしているのですが、作動による摩耗やキズが怖くてバカスカ撃つことができません。
今回の『スーパーフルハウス』は以前KSCが会員限定でweb直販していたカスタムモデル『フルハウス』の改良版です。特徴は、超有名カスタムガバのひとつボーランドアルティメットスペースガンのコンプにそっくりなコンプ、ホルスターへの収納を考えてアンダーマウントレールが省かれたマウントアーム固定具、M945シリーズ最長のインナーバレルはテフロン加工の超精密品、アルミ製大型マグウェルとマグバンパー、という感じで、これは元々レースガン色の濃いM945を完全レースガンに仕立て上げた代物です。ノーマルの1.5倍のテフロンコーティングのインナーバレルは高い命中精度を期待させますが、ノーマルの1.5倍のプレミアな価格も高いといわざるを得ないでしょう。
スライドブラックのツートンを購入した理由は、先述の通り、銀鱗は痛むのが怖くて思いっきり撃てないのと、やはり古くからの鉄砲好きはレースガンといえばこのツートンカラーに対して、夏の夜に羽虫が街灯に吸い寄せられるように、科学的説明では得心できにくい魅力を感じてしまうからですねえ。ま、それにノーマルサイズの銀鱗、コンパクトはブラック、で三つ目なのでまた違う色で、という理由もありますが・・・。
カスタムパーツは例のごとく、不要です。ノーマルでばっちりのバランスを崩しかねないので、下手にいじらないほうが賢明でしょう。特に今回のモデルはインナーバレルさえもテフロンコーティングで交換の必要はないかもしれません。アウターバレルはノーマル品にコンプのアタッチメントをつっこんで接着してあるだけです。そのため比較的簡単にステンレス製のものに換装できました。グリップは大型マグウェルのおかげでノーマル用の木製グリップがそのままでは入りません。ノコで下を若干落としてやる必要があります。マルベリー製の安いやつを買ってきてザクッと切りましたが、ちょっと切断面が汚くなってしまいました・・・。
トリガーフィーリングは暴発上等な軽すぎるものですが、板バネが柔らかいのか戻りがやや遅く感じます。ストローク自体が浅いので戻りが遅くても問題にはならないわけですが・・・。スライドの動きはばっちりで、10月も末なのに気温は23度もある中で、空撃ち40発ほど速射しても最後はスライドストップがかかります。
肝心の命中精度をみてみましょう。銀鱗とコンパクトと比較してみます。↓5mレストによる10発グルーピング計測です。
赤い点がスーパーフルハウス、緑の点が銀鱗、青い点がコンパクトです。コンパクト以外の2挺はボーマーサイトなので着弾に応じてアジャスタブルですが、コンパクトはノバックタイプでアジャスト不可なうえに、着弾はポイントよりかなり下になり、おまけにグルーピングはガタガタ、という救いようのないダメダメぶりです。KSCのコンパクトモデルはバレルが短いだけでなんでここまで性能落ちるのか?とホントに疑問になるくらい当たらないものばかりですねえ・・・。
スーパーフルハウスはなかなかのグルーピングです。銀鱗はカスタムバレルに換装済みですが、ノーマルでそれを十分に上回るのはテフロンコートのバレルは伊達じゃないということですね。
写真ではわかりにくいかもしれませんが、スライドストップのかかる切り欠きに真鍮を埋め込んであります。ネットで広まっている小細工で、WAガバのスライドストップノッチの摩耗を押さえるためにスライドに真鍮角線を埋め込むというものがあり、実は最近手を入れたWAガバにはもれなく施しているわけですが、別にWAでないと不可能な理由もないので、今回945にもやってみたわけですが、ちょっと失敗しました。スライドの外側を指と一緒にサクっと切ってしまいました・・・。
KSC純正マウントをつけてみましたが、マウントがスライドに接触して動作しませんでした。エ〜、純正なのに〜。マウントの内側を削りまくって問題なく動作するようになりましたが・・・。結局、とりあえずタスコのオプティマ後継になる安いTinyDotとやらを乗せてみましたが、その後C-Moreのレプリカが安く出たのでそれに載せ替えました。固定ねじ穴の位置があわないので無理矢理つけてますが・・・。グリップセイフティもステンレス製に交換してあります。
SWPCのM945、鱗状セレーションのシルバーモデル。M945といえば、カッコいいか悪いかは別として、この銀鱗しかないでしょう!
M945はアメリカのハンドガンメーカーとしてColtと双肩を成すメーカー、S&W(Smith&Wesson)が1990年代後半にタクティカルシューティングのために開発した『ガバ・クローン』です。メーカーはS&Wのファクトリーワークス部門である「パフォーマンスセンター」。略してSWPCと呼ばれるこのS&Wの虎の子は、お世辞にも精度が高いとは言えないS&W製品を各種マッチで通用するようなレースガンに仕立て上げ、それでいてワンオフに近いガンスミスに依頼するよりもずっと安価に提供する、オートにおいては特に何かと評判の悪かったS&Wの中にあって高い評価を得ていたセクションです。M945はそのSWPCがカスタムではなく新規設計のプロジェクトとして立ち上げた、ドラスティックな代物です。
随所にM645から受継がれているS&Wオートの面影を残しているものの、その姿はどう見てもガバメントです。スライドは45口径のサードジェネレーションのものを加工して使っているため、S&Wオートを使ったSWPCらしいスタイルですが、フレームは殆どガバそのものです。これが後に衝撃のSW1911に繋がっていくのかもしれませんが、M945は競技用としてデザインされているため、メカニズムはガバそのものの完全コピーではありません。700ドル前後の他社と違って、M945は2000ドル近くします。
最大の特徴はブッシングにあります。ガバはバレルとスライドを厳密にタイトには出来ません。バレルがティルトしてショートリコイルのロッキングを解くメカニズム上、ブッシングには遊びが必要になります。ガバベースのレースガンの多くはコーンバレルという先太りのバレルによってブッシングを廃し、その問題を回避しています。M945では金属のリングを使って、バレルのティルトに合わせて稼働するブッシングになっています。これがこの銃最大のポイントの一つ「スフェリカル・ブッシング」です。これでティルトするバレルもスライドにタイトにフィッティングできます。
で、KSCのM945を見てみましょう。勿論、スフェリカルブッシングは完全再現。当然、実銃同様にバレルのタイトなフィッティングを実現しています。そしてトリガー〜ハンマーの一連のメカニズムにおける主要パーツに焼結金属を使用しています。ナイフでおなじみの粉末鋼です。はっきり言って、すごいです。こいつのトリガープルは。今までSTIのトリガーがエアガンの中では最高の感触であると僕は感じていました。しかしM945はその上です。勿論レースガンとしてのガバクローンな訳ですから、SAオンリーです。ストロークは、遊び0.5mmで合計1.5mm程度です。STIが遊び1mmで合計3mmなので丁度半分。しかしシアがハンマーから外れるときの感触が、全然違います。
写真でもわかってもらえると思いますが、トリガーの下あたりのトリガーガード付け根が大きくえぐられています。これによりハイグリップが可能になり、バレル軸線はガバよりも下がります。
このアキュラシーに向き合う姿勢、トリガーフィーリングやグリッピング、ガバを研究し尽くした上での改良の結果、この銃は構えた瞬間に単なるガバクローンではないことを射手に理解させることに成功しています。
肝心の動きや命中精度はどうでしょうか。購入したのは発売日の翌日、つまり4月26日なわけで、これまた暖かくなってきていますので調子はよくて当然です。KSC初のシングルカラムマガジンなので、少々不安がありましたが、STIやM93R2と同じく実に快調に動作します。もう「少々寒くても十分にブローバックする」ということはブローバックエアガンにとって常識であり、選択基準から必要最低条件になったと言ってもいいでしょう。まだ正確にグルーピングなどはとっていませんが、従来のSTIなどと殆ど同じのようです。WAよりも集弾するのは確実です。また、マガジンがきれいなステンレスの皮を被っていますが、フォロワーのついたまともなものになっていて、かなりいい感じです。
内部パーツに関しては、ノーマルのエアガンとは思えない高精度パーツの完全なフィッティングによるほぼ完璧なトリガーフィーリングを持つため、換装は必要ないと思います。むしろ下手にいじってこの最高のバランスを崩すのは避けたいところ。メカ以外のパーツ交換で済ませるとして、今回はバレルとグリップの交換をしてみました。ステンレス製のアウターバレルとチェンバーに同じくステンレスのリコイルスプリングガイドを装着すれば、かなりフロントヘビーになるので大変満足です。またグリップは諄いほど言いますが、『木目調のプラグリップは存在そのものが許せない』ので、当然交換します。銀に茶色は映えないのでキャロムから出ているブラックウッドマイカルタにしました。黒い木グリ、銀鱗にいい感じで溶け込んでいます。ノーマルのプラグリップには内部にウェイトが仕込まれており、グリップを交換すると、全体的に軽くなってしまいます。これを少しでもマシにするため、木製グリップの裏側に例の鉛テープを2重に貼り付けておきます。グリップを取り付ける前に、はがれてこないように適宜細工が必要です。
SWPCが作り出した最高のファクトリーカスタムを、KSCはその心意気までもきちんと再現するように、実に出来のいいエアガンに仕立て上げました。これは、ホントに「買い」の逸品ですよ。