■ Emerson Commander (2007/05/24)


 エマーソンのコマンダーです。これは初めて買ったまともなメーカーのまともなタクティカルナイフだったりします。そしてこいつのスタイルに惚れて、本格的にこの趣味に凝り出したと言ってもいいです。ガンマニアにとってはコマンダーといえば4.3インチの(以下略)。
 Emerson Knivesはベンチメイド社のデザイナーだったアーネスト・エマーソンが1997年に独立して作ったメーカーで、タクティカルナイフというジャンルを確立した上に常に牽引してきたスゴイところです。元特殊部隊員でマッチョマンな社長さんは、ナイフを使った護身術のセミナーを開催したり、トレーニング用のDVD作ったりしてます。彼の自らの経験による理論に裏打ちされた、ナイフコンバットのためのデザインはタクティカルナイフの粋と言える格好良さがあって、たまりませんなあ。フィクスドブレードは一部の特殊モデルのみで、殆どの製品がフォールディングナイフです。
 数々の優れたナイフを発売していますが、その中でも最初期に発売されながらも現在に至るまでエマーソンといえばコレというほど売れ続けている代表作が、このコマンダーとなります。エマーソンではブレードのスタイルによって製品名の後にBT(ブラックテフロン)、BTS(ブラックテフロン+セレーション)、SF(サテンフィニッシュ)、SFS(サテンフィニッシュ+セレーション)という4種類の分類がつけられることが多く、当然ながら最もタクティカルぽくて人気があるのが、BTSとなります。
 ブレードの鋼材は154CM。価格と特性において最もバランスのとれたナイフ用鋼材のひとつですね。440Cよりも硬度が高いため、和包丁用の砥石ではなかなか刃がつかないようです。くどいようですが、鑑賞用なので、砥石とか気にしないですけどね。ハンドルはグラスファイバー入りのエポキシ樹脂の一種であるG-10。ABS等のプラスチック樹脂よりも軽量で摩耗しにくい特殊樹脂です。一般的にまともなタクティカルナイフのハンドルに用いられる樹脂はこのエポキシ系のG-10かナイロン系のザイテルが多いです。どうして樹脂のハンドルにするかというと、寒冷地での使用においてアルミを含む金属のハンドルではグローブをしていても凍結して張り付くことがあり、木製のハンドルは経年劣化に弱く温度差によるひび割れや腐食があるためです。ただ強化樹脂であっても強度は絶対的に不足するうえ、ブレード固定の板バネも必要なため、ライナーという金属板がハンドルの内側にあって二重構造となっています。このライナーは航空機用素材、エアクラフトアルミです。エアクラフトアルミといっても様々ありますが、詳細な型番等は公開されていないようです。でもこれ、安物のナイフと違ってすごいエアクラフトアルミ使ってますよ。
 実はこのコマンダー、2本持ってるんですよ。2本目は中古で安く売ってたのでついつい買っちゃったもので、外箱の傷み以外には目立ったキズがなかったのですが、ブレードの開閉が緩すぎるのと、オープンでロックされた時にほんの僅かながら上下に遊びがありました。修繕すべく分解して、結果完璧に仕上がってますが、このときに驚いたのがライナーのエアクラフトアルミです。要はこの板バネの起きる角度が浅すぎるために、オープン時に遊びがあるわけで、板バネをぐいと起こして曲げてクセをつけてやると改善することは明らかです。分解して取り出すと、これホンマに金属かいなと疑うほど軽く、模型用のプラ板よりも軽く、G-10のハンドルとあわせて厚紙でできてるんじゃないかと思うほどです。それでいて、ラジオペンチで板バネを摘んで思い切り引き起こしましたが、折れるどころか曲がりもせず、それどころかクセをつけるのも一苦労という塩梅で、空を舞う翼とはこれほどのものかと改めて感心した次第です。
 デザインはなんとも実戦的で、飾りのないシンプルなスタイルですが、そのシンプルさが武骨ながらスマートというバランスを生み出しており、飽きのこない、それでいて非の打ち所のない頼れるウェポンとしての存在感を内包する傑作たらしめていると言えます。典型的なドロップポイントよりやや大きく湾曲したエッジは、格闘時に相手の四肢の内側にある動脈を切断するために理想的とされ、タクティカルナイフの中でもコンバットフォルダーと呼ばれる製品にはよく見られますが、先鞭はこのコマンダーだったようです。リカッソのバック側にあるのがエマーソンの最大の特徴であるフック、通称「WAVE」です。ポケット等から勢いよく引き抜けばこのフックが引っかかり、ブレイド開いてロックされた状態で取り出せるため、オートマチック(自動開刃)やスイッチブレード(飛び出し刃)よりも早く戦闘態勢に入れるというデザインだそうです。その先にあるサムスタッドは円盤状でバックにネジ止めというまた独特なスタイルです。エマーソンのデザインの中では唯一カッコいいとは思えないところですが、一般的なサムスタッドに比べてグローブをした指でもブレードのオープンが容易であることは一目瞭然です。またブレードに最大限の強度を持たせるために横から穴を貫通させたくなかったのかなと思いますが、このサムスタッドの形状についての説明がエマーソンのサイト等ではちょっと見あたらないので憶測止まりです。ハンドルのデザインもとてもよく、通常のナイフでは突き出したときに握っている手が滑って自分の指の内側を切ることが多く、それを防止するためハンドルの人差し指があたるところは大きく抉られており、これはフックを使わずにサムスタッドでブレードをオープンする際の操作性の向上にも役立っています。
 デザインの点で余談ですが、僕は他にも趣味として熱帯魚を飼っています。これは鉄砲と同じくらい長い趣味で20年以上続けてますが、子供の頃から熱帯魚飼ってると誰もが通る道として古代魚にハマった時期がありました。中学生の頃だったかな、安いシルバーアロワナを40cmほどまで育てたとき、エアポンプの故障に気づかずに死なせてしまうという悲劇をきっかけにコリドラス好きに転向してしまったのですが、そのときに一緒に飼っていたのが安い古代魚のもうひとつの定番、ナイフフィッシュです。名前の由来は形がナイフみたいだから、という図鑑の説明に当時は全く納得できませんでした。当時の僕の中でのナイフのイメージというと、とあるゲームで、上半身裸で吊りベルトだけのマッチョな市長が、拾うやいなやモヒカンに投げつけるアレが代表的で、相方見習えよ投げずに普通に使えよこの筋肉バカ、という誰もが抱く疑問のアレはアーミーナイフというか大型のボウイナイフなので、どう見てもナイフフィッシュの形にはなりませんね。今Wikipediaで調べて知ったんですが、別名フェザーバック、天使の翼っていうらしいですよ、あのガンメタルでギョロ目でナマズじゃないくせにナギナタナマズなんて和名つけられている肉食魚が。大きく話題それましたが、エマーソンのコマンダーをしげしげと見てて気づいたのは、なるほどあれは確かにナイフフィッシュだ、ということです。フックは背鰭だし、波打つ腹から尾まで繋がった鰭はセレーションの入ったエッジだし。
 以前、特に欲しいナイフは今のところない、とか言ってましたが、嘘です。エマーソンのナイフで欲しいものが少なくとも二つあります。日本では取り扱いが少なく、あってもぼったくりもいいところなので、海外から個人輸入を画策しています。すでにメール等でいくつかコンタクトとってるんですが、国際注文を受け付けると明記してあるところでも、注文フォームに不備があったりして、問い合わせても原因を調査して返答するという返信があってからずっと音沙汰なしとかなので、こりゃ長丁場を覚悟しないと・・・といった感じです。例えばエマーソンの最新モデルCQC-15の場合、エマーソンのサイトでは220ドル程度の定価となっていますが、専門店では150〜180ドル前後で販売されています。これを日本で通販やってるお店を調べると32000〜35000円、ドルに直すと280ドル程度となります。国際送料が80ドル前後だと考えると、2本以上まとめて買うなら個人輸入の方が関税まで考えても安くすみそうなので、引き続き挑戦してみます。上手くいけば、ここでご紹介できると思います。


上写真左より:実戦的なカーブのエッジ、強靱かつ軽量なエアクラフトアルミのライナー、特徴的なバックのフックとサムスタッド







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